「させていただく」


http://d.hatena.ne.jp/PledgeCrew/20080909
http://d.hatena.ne.jp/sumita-m/20080909/1220977845


もう一年も前の記事なんですが、これ読んだときに書こうと思ったことあったのをずっと忘れてました。今日ふと思い出したので書きます。


「させていただきます」敬語では、私にもすごく印象に残ってるのがひとつあって、それは2004年のイラク日本人人質事件の報道で耳にした逢沢一郎外務副大臣(当時)の言葉です。「本日、ここアンマンに現地対策本部を設置させていただきました。」みたいなの。ヨルダンが現地なの? ていうのは置いておくとして、「対策本部を設置」なんて副大臣がやるに相応しい重要な仕事をしてるのに「させていただく」なんて誰に何をへりくだっているんだよ。と感じたことを覚えています。


おそらく、逢沢副大臣の気持ちの中に特別な含意はなくて、「本日○○を勤めさせていただきますむにゃむにゃ」みたいに敬語表現のひとつとして日常的に「させていただきます」を使い慣れてたから使ったに過ぎないのだろうとも思いますが、しかしこの「イラク日本人人質事件」をめぐってはいわゆる「自己責任論」だとかいろいろひどいバッシングが飛び交っていたことを考え合わせると、副大臣ともあろうお方が「させていただく」なんて表現を使ったことはやはり、いくらか批判されてもいいのではないかと思います。「渡航自粛勧告は出していたんですけどね、言うこときかないのがいてご迷惑をおかけしております。渡航自粛勧告を重く受け止めイラクへの渡航を自粛してくださった善良なる日本国民の皆さん、邦人救出のためにこうして皆様の血税のお世話になって私、ここヨルダンの対策本部の指揮を取らせていただきます。まことに恐縮でございます。」


もちろん実際にはこんなこと言ってないんですけど、バッシングの中で現地対策本部を設置したという状況とこの敬語表現がとてもイヤな感じにマッチしてしまっているし、少なくともああいう敬語表現を用いた背景には何者かへの配慮が働いていることを考えると、大臣とかやたら敬語使えばいいってもんじゃないよ、と思います。人質に取られている人たちはともかく、テレビの前で注目している「日本国民の皆さん」に対して、常に格別の配慮を示さねばならない日本社会があって、それに乗っかって「させていただきます」と口にしてしまう外務副大臣がいるわけです。ここで少し話はそれますが、逆に、こうした「格別の配慮」とかそういうのをあまり見せない「強いリーダー」像に連なる政治家やら経営者やら、それも近年国民の支持を受けていた人たちって、まさしく人質に「自己責任」とか言いそうなタイプでした。言わないまでも「……ねぇ。」という同意を求める笑みをときにはこぼして見せて、いつもの強張った目つきから柔和に映えるその笑顔が、またぞろ国民の皆様方のハートをつかむみたいな。どっちのタイプにせよ、「人権」とか「反戦平和」みたいなヌルいことはあんまり言わないし、言うときも「今はタテマエの話をしてるんですよ」って態度を漂わせるわけです。私はそういうのって「戦略」だと思ってたんですが、実は戦略なんかじゃなく、本気でそう思っていたみたいです。ここ数年でよくわかりました。