法務大臣は死神か? そうです死神です


鳩山邦夫アルカイダの友人の友人)が、朝日新聞のコラムで「死に神」と表現されたことで怒ったらしい。

鳩山法相は20日の閣議後会見で、「(死刑囚は)犯した犯罪、法の規定によって執行された。死に神に連れていかれたというのは違うと思う。(記事は)執行された方に対する侮辱だと思う」と強く抗議した。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/080620/trl0806201109003-n1.htm

とりあえず、「一国の大臣の職務を揶揄する朝日はけしからん云々」の朝日批判は論外*1としても、当の法務大臣は怒るなら怒ってもいいと思う。(「こんなコラム一つスルーできない肝っ玉の小さい奴が軽々しく執行命令書にサインしてることが問題」みたいな主張をしてる人がいて*2それはそれでとっても的確だと思ったけど。)

にしても、「執行された方に対する侮辱」とかいう抗議はよく意味が分からない。もしかしたら深い意味があるのかもしれないけど。
私は死刑廃止論者……っていうか、特別「論」と言うんでもなくただ単に死刑はダメだと思ってるから、死刑存置を主張してる人の、なんというか人を殺すということの痛みとかそういう内省を全く経ていないような主張(というより単なる「吊せ」の合唱)は見聞きするのも不愉快なんだけど、しかし共感できなくても「なるほどな」と思える存置論はたまにある。

fujipon 僕は自分が「死に神」と呼ばれることを覚悟のうえで、死刑制度存続を支持しております。じゃあ、宮崎勤は天使なのか?と。
あのー、すいません、普通に「死に神」だと思うんですが... - 女教師ブログのブクマコメ(id:fujiponさん)

私はこのエントリ自体に賛成なんだけど、こういうコメントってなるほどなと思う。id:fujiponさんの真意はわからないし、勝手に推測してるだけなんだけど。ところで「宮崎勤は……」以下はいらない。*3

つまり、死刑制度を正義としてではなく「悪」として捉えること。その立場から相応の重みをもって主張されたなら、そう簡単には反論できないな、と思う。死刑制度は、未熟な日本社会において「法の力」を示し社会秩序を守るために必要とする「悪」であり、それを担う人の苦しみも含めて崇高性があるとか主張した上で、「私は刑務官になりたい」とか言う人がいるなら、それはそれで尊敬できると思う。*4

というわけで、鳩山邦夫も怒るなら「死に神」に怒るんじゃなくて、冗談めかして揶揄されたことに対して怒るべきだったのでは。
「この未熟な日本社会で国民意識が要求する「死刑」を、政府の一員として苦渋のうちに遂行している。これは日本社会が必要とした悪だ。この悪を担う苦しみがわかるか? 私は死に神でも構わない。だが茶化しているなら怒るぞ。」みたいな。

でもねー、日頃の鳩山邦夫見てたらこんな発言出てこようはずもないんだわ。ベルトコンベアとか乱数表で執行したいとか言ってた人だし。要は法務大臣として、また死刑執行命令書にサインする者としての人格の問題。しかしまあ、今の日本の死刑賛成9割とか「吊るせ」の大合唱を見れば、執行命令書にサインするのがこんな奴でもなんの不思議もない気がする。福沢諭吉に「愚民の上に苛き政府あり」っていうのがあるけど、まさに「蛮族の上にこの法相あり」ということで。こう考えると、朝日のコラムを非難したくなってきた。「死に神」に失礼。

*1:権力批判するのがメディアの役目という観点からすると、朝日その他大手新聞はむしろ全部落第と言える程甘いのに

*2:マイミクさん

*3:宮崎勤は「天使」とか「悪魔」とかそういう特殊な存在じゃなくて「人間」なのが重要なんだよ

*4:もちろん、そういう強権でもって維持される「社会秩序」そのものを問題にするべきだし、この主張自体に共感できるわけじゃないんだけど。