軍事通ワナビがふしぎなくらいいっぱいいるのはなぜ?



aidetaocanさんのこのpostに関連して。


社民党福島瑞穂氏が「空母からB52が飛び立つ」と発言したとかいうのは繰り返しネタになっています。Goooogleの期間指定検索してみたらつい数日前にも言及されてました。この発言があったことは事実であり*1、検索すれば容易に見つかるのですが、2001年11月15日の参院予算委員会での質問に出てきます。なんと11年も前の発言ですが、いまだに繰り返し言及されているわけです。

○委員長(真鍋賢二君) 次に、福島瑞穂君の質疑を行います。福島瑞穂君。

福島瑞穂君 社民党福島瑞穂です。
 十一月二日の日に防衛庁設置法に基づいて海上自衛隊が英領ディエゴガルシア島に向かいました。総理は首相官邸で、米国にとっては戦闘地域だとおっしゃいました。戦闘地域に行くことは問題ではないですか。

内閣総理大臣小泉純一郎君) それは、コンバットゾーンという話が出たから、これは日本語に訳せば戦闘地域だろうと。しかし、アメリカのコンバットゾーンと日本の戦闘地域という場合においては違う場合も出てくるということを言ったんですよ。ディエゴガルシア島が戦闘地域じゃない場合もあるでしょう。戦闘地域の場合もあるかもしれない。これは戦争が起こってみなければわからない。ディエゴガルシア島で戦争が起これば戦闘地域、戦争が起こらなければ戦闘地域じゃないんですよ。そこを言ったんです。

福島瑞穂君 私は、問題なのは、米国にとって戦闘地域だと首相がおっしゃったことです。つまり、戦争はもう起きているわけです。B52はディエゴガルシア島から飛び立っています。アメリカにとっては戦闘地域で、日本にとっては戦闘地域でないなんてことがあるんですか。国際社会では物差しは一本でしょう。どうして米国にとって戦闘地域が日本にとって戦闘地域じゃないんですか。

(中略)

福島瑞穂君 よくわからないんですね。
 そこでB52が、実際に艦船から飛び立ち、攻撃をするわけです。直接に攻撃をするわけです。ですから、そこは相手方から見て十分攻撃される場所ですから、アメリカは戦闘地域と考えているわけです。日本がいつまでも、日本は戦闘地域と考えないと日本だけが言って、だから自衛隊は行けるのだとすることは極めて問題だと思います。

http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/153/0014/15311150014006c.html*2


この議事録を読む限りでは、はじめに「B52はディエゴガルシア島から飛び立っています」と言っていて、その後に「B52が実際に艦船から」と言っており、たしかに意味不明です。ですが、おそらく質問時の言い間違いであり、ここでの質問はディエゴガルシア島への自衛隊派遣を問題視していることは明白です。引用元のURLから続きの質問も読んでみてほしいですが、このほかにも北部同盟が捕虜の少年兵を多数処刑したとか、誤爆や国境封鎖による食糧不足のため多数の死者が出ることについても問題にしています。

アフガニスタン攻撃に際しての自衛隊のインド洋派遣は、9.11テロ直後の興奮のさなかに「テロ対策特別措置法」を成立させ、それを根拠に行われました。この予算委員会が行われた数日前に海上自衛隊の艦船が出航して、、、という状況です。米国のアフガニスタン攻撃やそれに続くイラク戦争は、今ではその攻撃の根拠についての重大な疑義が明らかになり、結果も含め不当な軍事介入だったとしてきびしい批判にさらされています。そしてこの小泉政権下の戦争協力は、米国と日本の戦争協力の新たな局面を開いた歴史的なものでした。11年経った現在からすれば、戦争協力の事実が積み上げられていく寸前にも、福島瑞穂氏がこうして問題点を指摘していた。しかしそれは十分に吟味されなかった。この議事録はそのような点に注目し反省的に捉えられるべきものでしょう。

私がふしぎに思うのは、「B52が空母から飛び立つ」について、言及するみなさんが当然のようにそれが起こりえないことを常識と捉えていて、なおかつその常識が広く共有されているかのように前提し、きわめて過剰に福島瑞穂氏の「(軍事的)無知」を問題視し、単なる言い間違えの可能性すらきびしく責めることです*3。正直私もこれに関連したあれこれではじめてB52ていうのがどういうものか知ったし、じゃあ空母から飛び立つのはなんていう名前のやつなのかとかは今に至ってもよく知らない。

こと軍事知識についてはこういう極端な反応、「たしなみ」としての自明視が出てきますが、とてもきもちわるいです*4。軍事通気取りが例えば「人権」とか軽んじたらもうネット民の支持とか「ちょろいもんだぜ」な状況があります。まあ知らないよりは知っていた方がえらいのかもですが、上に引用した福島氏の質問の意義が全力でスルーされたまま「B52 空母 福島みずほ」だけが一人歩きしている状況はどうしようもないものだと思います。そして、こういう形での福島瑞穂氏のネタ化とその継続は案外あなどれない力を持っていて、その力が今後どう働きどういう結果を生むのか、なにかおそろしい予感もします。ともあれ、軍事通ワナビの横並び的な嘲笑なんてものは、政治の上での公正さやらなんやらとは最も遠くにあるはなくそみたいなものでしかない、と結論づけていいのではないでしょうか。そして、こういうくそみたいなものにこそ影響力があったりするのが現状なわけです。


ちなみに、ニコニコ大百科の「福島みずほ」の項目はこのようにひどい有様です。

一応党首だが、記者会見において空母から爆撃機が飛び立てると信じてたりする。また未だに自衛隊が戦争を起こすと信じて止まない53歳である。自衛隊の意味を理解しているのかどうかはさておいて発言などを振り返ってもちょっと頭がお花ばt・・・げふんげふん、いつまでも少女の心を忘れない人物。

福島みずほとは (フクシマミズホとは) - ニコニコ大百科

こんなのを放置してるわりにニコニコ動画党首討論のインフラに推薦したりする人がいるのもおどろきです。

*1:このコピペがデマであるのとはちがって→ http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20060606/p1

*2:強調は引用者

*3:B52が空母から飛び立ちえないのはあまりにも自明な常識なのだから、言い間違えでもこんな発言は政治家としてとんでもない、みたいな

*4:これによく似たものに放射線照射食品への懸念(を笑う)などもありますが、今回は面倒なので触れません