図書館がホームレス排除に苦心しているとかいう件についての私からの提案

図書館にも女性専用席 ホームレス対策…「不公平」の声も

東京都内の図書館で、女性専用・優先席を設ける動きが広がっている。現在のところ、23区内220館のうち8館で実施。女性専用車両の痴漢対策というよりは、主な理由がホームレス対策だ。「安心して使える」「使いやすくなった」と歓迎する女性の声もあるが、男性からは「不公平だ」との声もある。(安岡一成)


■苦肉の策
台東区の中央図書館。今年4月からフロアの一角に設けられた「女性専用席」に女性が2人腰掛け、料理雑誌を読んでいた。周りの棚にはファッションや子育てなどの女性向け雑誌が並ぶ。いつも利用しているという主婦は(58)「ホームレスがいっぱいで利用しづらかったから、女性専用席は悲願だった。おかげで落ち着いて読めるようになった」と話す。
台東・荒川の両区には日雇い労働者やホームレスが多く滞在する通称・山谷(さんや)地区がまたがる。雨天や暑さ寒さが厳しい時は朝から大きな荷物を持ったホームレスが図書館の前で開館待ちをしているという。

荒川区の南千住図書館。昭和63年と都内で最も早く女性専用席を設置、平成10年に移転してからも9席の女性専用席を「女性コーナー」として継続している。
「飲酒したホームレスが大勢くると空調では対応できないほど館内全体が酒臭くなる」と職員。移転前はさらにひどく、「ホームレスが閲覧席を占領して利用したくても近寄れなかった。ケンカ、居眠り、床に座りこむ…。声をかけるとよく殴られた」と振り返る。女性から「怖い」いう苦情が殺到したことから設置したという。
専用席設置の理由に「ホームレス対策」を挙げたのは他5館。一方、江東区の東雲図書館などは「痴漢が出たから」とした。いずれもここ10年以内に設置しているが、「苦情がでたからといっても利用拒否はできない。多くの人に快適に利用してもらいたい」(葛飾区のお花茶屋図書館)という「苦肉の策」として設置されたのが共通している。
しかし、疑問の声もある。女性席の割合が50席中10席と大きい中央図書館では、「不公平だ」などと男性から抗議があるという。別の図書館の職員は「個人的には反対。男女を分けることはおかしいと思う」と漏らした。

■住み分け
ホームレスが多いといった環境にあっても女性専用席を置かない図書館もある。
墨田区の寺島図書館はかつて女性専用席があったが4年前の館内の配置変更を機に廃止した。その代わり、男性の読者が多い新聞を2階に、女性向け雑誌を1階に配置したところ、自然に男女の棲み分けができたという。台東区の石浜図書館は思い切って一般用の閲覧席を全廃し、貸し出し専用の図書館にした。
荒川区の荒川図書館は今年4月、小坂英二区議の抗議を受けたのをきっかけに女性優先席を誰でも座れる「暮らしのコーナー」と改名した。小坂区議は「女性専用席という名称では、男性はたとえ高齢でも障害があっても座れない。迷惑利用者を不快に思うのは男女変わらない」と指摘する。一方、南千住、日暮里図書館は同区議の抗議を受けたが「なくせばまた、女性が来づらくなってしまう」として現状維持の方針だ。

■解決策は
女性専用席を実施しているのは首都圏では東京都のみだった。都内の図書館を管轄する都立中央図書館(港区)は、各図書館の独自の取り組みになるため実態は把握していないという。
こうした取り組みについて、コラムニストの勝谷誠彦さんは、「看板を立ててトラブルから逃げようとする図書館員の事なかれ主義だ。税金を払わないホームレスを図書館に入れること自体おかしいし、女性だけの席をつくるのは公平でもない」と辛口だ。
女性学研究家、田嶋陽子さんも「女性の言うことを聞くことが男女差別解消になると誤解した行政の典型だ。そもそも、体臭のことをいうこと自体が差別で、行政がその片棒を担いではならない。もっと工夫すべきだ」と疑問を呈する。
利用者の女性には評価が高かった。それだけ、厳しい状況なのだろうが、専用席の設置は根本的な解決策にはならない。どうするべきか、アイデアを募る必要があると実感した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080830-00000909-san-soci

面倒だから全文引用。とにかくひどい記事。現実がひどいから仕方ないのかもしれないけど。

ホームレス対策なのに「女性専用席」っていう発想が出てくるのは、要するにホームレスという弱者問題に女性という弱者性をぶつけることでもって、本当の問題ごまかそうとしてるだけでしょ?*1 無作法で暴力的なホームレス像を勝手に作り出し、ホームレス排除を「女性の区民の皆さんにも快適に利用していただくため」とかなんとか正当化したいのが見え見え。「なくせばまた、女性が来づらくなってしまう」っていうあたりにその心情がにじみ出てる。ところで、ホームレスには女性もいるんだけど、女性ホームレスなら「快適に利用」させてくれるのかな。

雨天や暑さ寒さが厳しい時は朝から大きな荷物を持ったホームレスが図書館の前で開館待ちをしているという。

ホームレスが寒い日に行き場がなくて困ってるという現実を描写しつつ、文脈的には「山谷に近いと図書館も大変」「対策が必要」という語り方にしかつながっていかないこの記事の不気味さ。

大体、図書館で暖をとるホームレスが、本当に「ケンカ、居眠り、床に座りこむ…。声をかけるとよく殴られた」というような乱暴者ばっかりなら、「女性専用席」なんていう張り紙なんて無視して好きなように居座って酒盛りするんじゃないの? 「怖い」「乱暴」「酒臭い」という点を強調することで忌避されるべきホームレス像を作り上げておきながら、女性専用席程度の対策で十分効果が出ているって時点でこの記事は論理的に破綻してるんだよ。相手は無法者でもなんでもなく、張り紙に書いてあることをしっかり守ってくれる善良な人なんだから。

小坂英二とかいう区議の発言もひどい。

「迷惑利用者を不快に思うのは男女変わらない」

要するに、男性も利用できる「ホームレスじゃない人専用席」を設けようってことですか?*2 いつも書いてることの繰り返しになるけど、「迷惑利用者」って言ったときの「迷惑」というのは誰基準なの? 多数決? じゃあもし、図書館において多くの人が迷惑に感じる所作(例えば、咳が止まらない)があったとして、そういう人がみんなから不快に思われていたとする。だったら何なの? 「公共施設を利用する権利」よりも「公共施設を快適に利用する権利」の方が上っておかしいんじゃない?

この「図書館を利用するホームレス」の問題については、ホームレスを追い出すべきじゃないと思うけどやっぱり悪臭がなあ、みたいな率直な感想も含めいろいろとアイデアが出たりしつつ、なんか難しい問題みたいに語られてますが、「どのように優しく排除するか」という視点に立ってる限り全て問題外です。そもそも、こんなものは問題でもなんでもない。公共施設なんだから当然、ホームレスも利用していいのです。

悪臭が気になる? だったら家に帰ればいいのです。あなたには帰る家があるんでしょう? 経済的に困窮しているために衛生状態を保つのにも苦心している人たちが、寒さや暑さを避けて図書館にやって来る。当然受け入れるべきだ。悪臭の程度がひどければそれだけ、積極的に受け入れるべきです。*3気を遣わせないように配慮してもいいくらいです。不本意ながら不衛生な状態におかれているホームレスがあなたの前に現れ、そのことが悪臭云々を含む「快適性の問題」として意識されるとき、それはただあなたの快不快の問題なのではなく、ホームレスという社会問題に対するあなた自身の態度を問われているのです。ホームレスを生み出した社会の成員でありながら、ホームレスを「公共空間における悪臭」としてしか捉えられないとすれば、それは恐ろしいことです。

図書館の目的に沿っていない? だったらホームレスの人に、雑誌の一つくらい膝に乗せておいてくださいとアドバイスすればいいだけだ。

ホームレスは納税してない? この勝谷とかいう人何言ってんの? 課税最低所得額っていうのがあるんだよ。*4金ない人は税金なんて払わなくていいんだよ。国家は会員制のスポーツクラブか何かか? 違うだろ。納税と生存権保障を勝手に結びつけるなよ。まあいずれにせよ消費税くらいは納めてると思いますけど。

ここで提案ですが、図書館側が積極的に福祉の窓口につなげればいいんじゃないでしょうか。巡回相談事業とかの一つの拠点にするとか。無論、ホームレスを追い出さないことが大前提です。各自治体が取り組んでいる(だろう)野宿者対策事業の内容を周知するための場として、またホームレスとそうでない人たちの交流の場として。つまり、ホームレス専用席を設けるくらいやって、図書館にホームレスを積極的に呼び込み、そこを糸口として個別のケアをやるということです。




【追記】

っていうか修正。図書館員にホームレスとの相談をさせたり、福祉への窓口的な業務をさせるという意味ではなかったんですが、「図書館側が積極的に福祉の窓口につなげればいいんじゃないでしょうか」この書き方だとそうなってしまいますね。

福祉職員が出向くようなかたちで、図書館から福祉につなげる経路を作るということです。巡回相談事業なんかは、今は民間団体が委託を受けてやってますが、図書館に立ち寄るということを巡回相談事業のプログラムに組み込むということです。福祉窓口もシェルターも存在していますが、そういうところに直接出向くという発想がないホームレスも多いので、施設や福祉を周知させる場として逆に活用すればいいんじゃないでしょうか。タダで医療が受けられる制度があっても、それを知らずに病気を悪化させてる例も多いです。例えば、

id:qinmuさんからのブコメ

qinmu ホームレスと日雇い労働者を一くくりにするのは間違いだと思うけど、小便垂れ流しのホームレスのアンモニア臭といったら、目を刺すような悪臭なんだよ。居なくなっても数時間は匂いがとれない。分かって言っている?

「小便垂れ流しのホームレス」は糖尿病の悪化などで、慢性的な尿失禁になってるケースが多いと思います。*5
ホームレスだってほとんどみんな清潔でありたいと思ってるし、好き好んで糞尿垂れ流しになんかなりません。そこまで無頓着にもならないものです。だから「目を刺すような悪臭」を感じ、そこに「小便垂れ流しのホームレス」を発見したなら、彼らこそ積極的に受け入れるべきです。そして、福祉につなげることで医療を受けられるようにするべきです。排除という選択肢は最低最悪のものです。



【追記2】

図書館とホームレスについて、関連エントリで表示されたもので、すでにすばらしいエントリがありました。とりあえず気付いたものを貼っておきます。

支援しろなんて言ってない。追い出すなと言ってるんだ。 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20080510/1210408955

あるべき図書館(公共施設)とは - Arisanのノート
http://d.hatena.ne.jp/Arisan/20080508/p1

臭いから始まる下からのファシズム - NWatch ver.X
http://d.hatena.ne.jp/Rir6/20050804/1123103502

*1:http://d.hatena.ne.jp/Romance/20080527#p1

*2:その「暮らしのコーナー」っていうのがホームレスも利用できるのかがこの記事からは謎

*3:ホームレスでも大半の人は身ぎれいにしています。困窮の度合いが高ければそれだけ、衛生状態も悪くなります。

*4:世界的に見ても日本はかなり低めだけどね!

*5:私の貧弱な経験の範囲ですが